昨日、ついったーのTLで、ある漫画家先生お二人が野球漫画『おおきく振りかぶって』談義に花を咲かせておりました。
流石面白い比喩を交えての鋭い考察でそれには一部同意できるところもあるけど、「おお振りクラスタ」を自認する私としては素直に頷けない読みがあったので、脳内で対抗意識を燃やしつつダラダラと考察をポストしてました。
以下は私のつぶやきまとめです。と言いつつまとまりのない文章なので、お忙しい方は一番最後のまとめ部分だけ読んでください。
まず上の漫画家お二方をはじめ、『おお振り』絡みで非常に多く見られるのが「女性作者が独自の視点で男の世界を云々」という類の感想です。確かに真ではあるのでしょうが、この作品の構造を「女性独自の」と括ってしまうのは、解釈としていささか大雑把な感がします。
「どこに視点があるのか」をもっと厳密に(田島用語のゲンミツに非ず)絞り込んで言わせてもらえば、あれは主に球児を見守る保護者・応援者の視点から高校野球というテーマを掘り下げた作品です。通常のスポーツ漫画なら邪魔者や背景のひとつでしかなかった母親をあそこまで前面に出したり、応援団やチアがチームに寄せる思い入れとか彼等のやる気を丁寧に描写してる辺りにそれが表れています。
学生時代一度でも籍を置いていた人なら解ると思うんですが、実際の運動部って活動が本格的であればあるほど後援組織みたいなものが保護者間で結成されて、子供たちに非常に密接に関わってくるものです。私が中学時代に所属していた卓球部(毎年県大会ベスト8クラス)にもそんな組織があって、男子部も女子部も主婦中心に構成されていましたし、高校野球でも余程やる気の無い部でなければほぼ確実に存在しているのではないでしょうか。だけど通常少年/青年向けとされる野球漫画って保護者の、特に母親の内助の功描写を意図的に避ける傾向が高いんですね。これはひとえにそれらが描かんとしている題材が「一人前の男になるための物語」だからで、創作においては昔から野球部って「男になりに行く場所」として用いられることが多いような気がします。『巨人の星』や『キャプテン』、最近では『メジャー』のように父親が少年主人公に色濃く絡んでくる分には全然アリなのですが*1、これが母親だったら具合が悪い。「なんか成長してる気しないよ!」って印象を読者に与えちゃうからです。野球の上達とかとはまた別の問題で。このような理由からどんな本格志向の野球漫画でも影に日向に存在する女親の支援を、認識していながら暗黙のお約束として描かないでいた(のだと思う)。
そこを『おお振り』は通常の野球漫画にある「空気を読まず」に保護者の積極的な介入のリアルをこれでもかと描写しました。また応援団やマネージャーにも頻繁に視点を移して、選手のため主体的に行動したり、選手の成長を見守る様も丁寧に描いています。本編だけでも十二分に伝わる作りですが、コミックスカバー裏のオマケ漫画を読むといよいよもって西浦高野球部は彼/彼女ら抜きには成り立たないと思い知らされて、もしこんな献身を注がれる立場になったら有難すぎてとにかく泣きますね。応援団長の浜田君もマネジの千代ちゃんも本当に頭の下がる働き者です。
この時点で何が言いたいのか本人でもわからなくなりかけですが、強引にまとめます。
- 通常、少年/青年向けとされる野球漫画は、プレイヤーが主体でかつ野球チームを介した「一人前の男になるための物語」を題材とする作品が多い。
- それ故の迫力や臨場感もあるけど、意図的に(実際の活動では不可欠だと言って良い)保護者など「球児たちを主体的に支援する側」の描写をかなり避けている。母親とかにあんまり助けられてばかりだと「一人前の男感」が薄まっちゃうから。
- 『おお振り』は完全にその逆を行った野球漫画。戦略的にと言うよりは恐らく天然だと思われるが、作者のひぐちアサ先生は最初から球児を観賞する/保護者感覚で応援する立場としてこの作品を描いた。
- 「球児たちを見守る側」に目線を据えているからこそ、野球経験者から全く野球を知らない層まで幅広く取り込んで高い人気を集めている。
- ある程度本格的な運動部に属していた人なら誰でも『おお振り』に懐かしさを覚えるんじゃないだろうかと想像する。ま、私個人から見ると「あんな思いやりに長けてキラキラした良い子ばかりがうまく集まるものかなー」と思わなくも無いですが(偏見か)
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