歩き回る虎

なんだかんだ10年近くはてなを愛用する村人です。アニメや漫画やゲーム等のオタク系レビュー、投資日記、世の中のこと、ツイッターで書ききれないこと等を書き連ねる雑記ブログです。

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【レビュー】劇場版『SHIROBAKO』、ガッカリだった。ライトオタク向け「アニメ制作者TUEEEE」にとどまる内容。

SHIROBAKO レビュー 劇場版SHIROBAKO 感想

 公開初日に観てきました。

 

 面白かったTVアニメ版から5年の時を経た劇場版ということでテンションは公開前までブチ上がっていましたが、実際観たら・・・うーん・・・

 

 あくまで個人の感想ですしお好きな方には悪いのだけど、100点中55点。といった感じでした。

 

 


劇場版「SHIROBAKO」本予告【2020年2月29日(土)公開】

 

 【微妙評価の理由】

 

 『SHIROBAKO』アニメ1話冒頭とかぶせてくる、劇場版の冒頭。

 何も脈絡もなく主人公の乗るムサニ社用車が同業者の車と並走して頭文字Dばりの公道カーレースバトルをぶちかますインパクトで視聴者の注目を鷲掴みにしたTV版との対比演出なのですが、劇場版のそれは見る影もありません。傷が放置されボロボロの車、青信号でもエンストで進めずドライバーも明らかに覇気を失っている。そのタイミングでカーラジオから流れる「今やアニメバブルは完全崩壊した。放送されるアニメ本数は激減して録画する必要もない」と言ったアニメ界衰退を示唆するトーク。ここまでは完璧な導入でした。アニメ制作の現場を描く大ヒットエンタメアニメとなった『SHIROBAKO』が今の地位だからこそ出来るアニメ業界全体への提言や喝を想起させるイントロで俄然ワクワクしました。

 

 ちなみに本編はある致命的なアクシデントから社長退任→TVアニメの主要ムサニメンバーがほぼ解散してバラバラになった状態から半ば負債を押し付けられるような形でオリジナルのSF劇場アニメを制作するというストーリーです。

 

 ですが、ピークだったのは冒頭と途中に挿入される「アニメ脚本家師弟のやり取り」のみ。思わせぶりなメッセージで盛り上げておいて、結局やってる事はTVアニメ制作を描いたTVアニメ版(ややこしい)とほとんど変わりません。個人的にアニメ業界にガツンと一石を投じてやろうという挑発的な気概にこそ期待していたのですが、結局無難を極めて波風立ちようがない「アニメ制作のお仕事ってどうなってるのかなー?」という小中学生向け職場体験レベルの紹介にとどまっていた気がします。

 いや、元々『SHIROBAKO』はライト層向けエンタメ萌えアニメだと言われればそれまでなんですが、アニメバブルが飽和した今だからこそやる意味というものに私が勝手に期待しすぎてしまいました。。

 

 そしてTV本編のTVアニメ制作描写は現場のアニメーターから「ご都合主義のエンタメ」と評されながらも、ギリギリの切迫感のなかドラマチックに問題点を乗り越えて制作スケジュールをスタッフ総出で必死に間に合わせている説得力がありました。しかし、今作はTV版の主要スタッフがほぼ解散していて無理に等しい短い制作期間、更に脚本家はまれに見る大スランプという前と比較にならない絶望的な状況下なのに、あっさり余裕をもってスケジュール内に仕上がってしまいます。その上、興行収入的には極めて不利と思われるノーブランドのオリジナルSF宇宙アニメであっさり大入り満員してしまう。

 

 TVアニメ版では何とか許容できる範囲だったリアリティラインが劇場版では「さすがにねーよ!無理ありすぎ!」となってしまいドラマに乗れませんでした。

 

 いや、メタ的に脚本の都合で見れば「物理的に絶対不可能な状況で、奇跡的に間に合ってしまった」理由はわかります。「完成したけど土壇場で妥協を許さなかった監督が悩んだ結果こだわりを貫いて描き直す。職人気質スゲー!」このシーンを描きたい脚本のご都合でミラクルを起こしたんですよね。それはわかる。でも、観ていて一本の流れになる理由が欲しかった。

 

 また、TVアニメ版の1クール目は、業界が冒険できずに原作付きや続き物アニメばかり作りたがる現状で、監督の作家性をフルに押し出したオリジナルアニメ作りに挑む事がいかに大変でアニメ界において有意義であるかという力強いメッセージが込められていたと思います。他ならぬ『SHIROBAKO』が完全オリジナルなのですし、そんな水島努監督達の気概を大変好ましく思っていました。

 

 しかし散々オリジナルアニメ制作をリスペクトするようなメッセージを発する一方で、新海誠監督を元ネタにしているであろうオリジナルアニメ監督が社会現象としてメディアに取り上げられる事には揶揄的で冷めた目線で扱ったうえ、女性声優との枕営業疑惑で炎上させて笑いものにするというダブスタとも取れる描写も興ざめした一因でもありました。作中のアニメーターに「俺、ああいう実写的な映像は好きじゃないんだよねー」とか言わせてしまうし、いかにもメディアに注目されて調子こいて勘違いしてるキモいピエロというリスペクトの欠片もない扱いです。

 というかそもそも話のご都合でスキャンダル炎上させる必要あったか?多忙だけど友情で制作協力するという流れではダメだったのか?ネームバリューのあるクリエイターの参戦で宣伝が一挙有利になるという展開の方がアツくて自然だったのではないか?炎上監督を抱え込んだらムサニも飛び火するだろうに。新海誠モデルっぽい「彼」が加入する流れと動機に無理がありすぎます。

庵野秀明モデルの人物は好意的にリスペクトを持って大物として描いてたのに、どうしてこうなった。

 

  何より元の劇場アニメ仕事の契約形態が非常に胡散臭いだけに、仮にそこそこ成功したとしても会社を立て直すだけの収益になるか怪しく、これまで契約関係がしっかりしていたTVシリーズの仕事と違って、何とか映画公開に漕ぎ着けてもあまりカタルシスがありません。ラストカットで一応3作ほど新しいTVシリーズを企画していた風景が見えていたので、一応は次に繋がりましたよ、というフォローがあるのでしょうけど。

 

 極めつけがラストシーンと主人公5人が初心を思い出すために挿入された子供向けアニメイベントでのセリフです。

 

 「伝わるかな?ぼくらの全てを詰め込めるだけ詰め込んだよ」

 「子供たちからアニメ作りで大事なことを教わったね」

 

そういう事はセリフで全部そのまま説明するなや!

ベタに言わせるなや!

アニメなんだから映像と必要最小限の言葉で表現してや!!

 

なんだか全体的に「アホでも伝わるように、テーマの全てを人物のセリフでそのまま説明させてしまう」のが多かった。前述の「理由なく納期に間に合ってしまった」ことといい、ベテラン脚本家・横手美智子さんのお仕事とは思えない粗さが多かった。