歩き回る虎

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【レビュー】『劇場版シティーハンター 新宿プライベート・アイズ』 「時代のせい」にして逃げなかった制作陣の挟持とサービス精神が素晴らしい

シティーハンター 劇場版シティーハンター もっこり 感想 レビュー

 


「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」本予告 2019年2月8日金全国ロードショー

 

 アニメ『シティーハンター』を小学生の頃、再放送で全シリーズ見てた勢です、こんにちは。

 20年ぶりの新作アニメ、しかも映画、メインキャスト全員続投という話題で注目されていた『劇場版シティーハンター 新宿プライベート・アイズ』を2月半ばに観に行って感じた事を整理してるうちに、歯抜けだった単行本を揃えてAbemaTVの無料放送を見まくったりDVDを買ったりして気がつけばシティーハンター漬けの一ヶ月を過ごしておりました。

  

 以下、TVアニメ作品ごと総括したネタバレ全開のレビューになります。

 

 

 

『劇場版シティーハンター 新宿プライベート・アイズ』レビュー

 まず何より特筆すべきは、80年代~90年代初頭のバブル期に連載された名作少年漫画である本作を2019年の時流に沿い根底から話の流れを大改変しながら多くの古参を満足させた加藤陽一氏の奇跡の脚本力にあります。

 

 具体的にどこが改変されたのかというと、古い視聴者・読者にはお馴染みでしょうが『シティーハンター』の各エピソードは基本的に以下のテンプレートで進行します。

 

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1、美女の依頼人シティーハンターに厄介でうさん臭い依頼を持ってくる。

2、金銭報酬よりも「もっこり報酬(要はワンナイトラブ)」を最優先する冴羽獠はスケベ心全開で引き受け、一応口説いて自分に惚れさせてからの合意を前提としているものの隙あらば「手付もっこり」を頂こうとホテルに連れ込もうとするわ、下着を盗むわ、風呂や着替えを覗くわ、夜這いをかけるわやりたい放題。

※ただし18歳未満の女性は児童としか見られず対象外で向こうから迫られてもキッパリ断る

3、そんな不埒な獠のセクハラの数々を100tハンマーで阻止して女性依頼人の操を死守する相棒の槇村香ちゃん。(香は普通に金銭報酬を求めているので女性の依頼しか受けようとしない獠に頭を痛めている。なお半分ジェラシー)

4、アホギャグやりながらも依頼人の悩みは真剣に聞いて対応するし、ボティーガード兼始末屋としての腕は超一流でケタ外れの射撃能力で敵を撃退し依頼人を守り抜くので、獠のセクハラに警戒していた依頼人も次第に獠に心を許し惚れかける。

5、なんやかんやで獠と香の深いパートナーシップを見せつけられ「自分の入り込む余地はない」と悟り淡い恋心から身を退く依頼人。で、結局「もっこり報酬」の方は支払われる事なく事件解決。ラストで画面が止めて引いて、Get Wildが流れてED。

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 アニメ化当初の昭和後期80年代は今よりずっと規制の基準もゆるゆるなうえ性的なモラルも時代相応でしたが(さすがに視覚的な股間の隆起するもっこりは修正したものの、それ以外は上記テンプレのまま無修正なのにまさかのゴールデンタイム放送……)、さすがに性加害の概念が全国民に格段に浸透するようになった2019年現在には明らかに合わずそのまま再現すればいかに無法者のシティーハンターとて観客の多くを不快にさせての炎上コースは免れないでしょう。獠はみんなの人気者でイケメンですけれど、依頼人にしている事はほぼ性犯罪に引っかかるものばかり。現に現在無料配信中の原作漫画のコメント欄にも「リョウちゃんはカッコいいけど、夜這いってレ○プと同じじゃん……」と苦言するファンもちらほらと確認できます。全くもってその通りだし一般的な反応と見ていいでしょう。

 

 そんな時代の反応を踏まえたであろう本作は

 

『冴羽獠が妙齢の依頼人女性を恋愛対象として口説かない(反射でスケベ心は出しても寝る対象と扱わない)』

 

『冴羽獠の仕掛けるセクハラの被害者は極力ゼロ名にする』

 

という作品の根幹に関わる部分に革命的で超弩級の力技改変を加えた唯一のシリーズです。

  本作でも冴羽さんは元気よく「もっこり」連呼しまくってますし、締まりのないスケベ顔も健在ですが何気ないシーンの数々によくよく見ると下のような膨大な工夫が施されています。

 

依頼人には出合い頭に「もっこりちゃん」と声掛けするが、それ以降は比較的下心は落ち着いている

・通常と違い冴羽獠が依頼人のバストやヒップ等を品評して鼻の下を伸ばす描写が無い(キャッツアイ三姉妹にしてた分は仕事外だからOKという扱いか)

・獠や教授が女性の尻や脚に手を伸ばすもタッチは全て失敗、寸止めで成敗される

・のぞきにカメラ付きドローンを使用したが、リアルタイムで操縦者が映像を確認できるタイプではないうえ侵入寸前の絶妙な場所で香が阻止したので見られた被害者はゼロ(のはず)

・元々の獠は下着盗みの常習犯だが本作は依頼人の見ていない場所で頭にかぶっただけなので持ち去られず依頼人は狙われた事も知らない、なおかぶった所は香に発見されしっかり成敗される

・もちろん夜這いしない(そこから悪党に自宅を襲撃させて香の夜這い防止トラップを披露する展開に持っていってるのが上手い)

・胸への接触やお色気シーンはすべて所謂ラッキースケベ、だからといって許容する訳ではなくその後もしっかりと香に成敗させる

 ・通常ならボクしゃんとデートしましょウフフなどと言って依頼人を強引に誘う所を「頑張った君へのご褒美として街のオススメスポットに案内しよう」という言い回しにする

・冴羽さんは依頼人の肩一つ抱いてない、敵からの逃走時に手を掴んだかな程度で基本的に依頼人の身体には自ら触れていない

・「手でのタッチがアウト」という基準なのか、キャッツアイ来生瞳登場時には背面から背中を擦り寄せるポーズで「もっこりちゃんへの興奮」を表現している

・1シーンだけ冴羽獠の代名詞的なナンパ行為が挿入されているが、それは敵の目を欺きながら敵に接近するためのカムフラージュ

・1シーンだけ依頼人をクラブに連れ込み全裸芸を披露しているが、正体不明の武装集団に脅かされる依頼人のストレスを紛らわせて安心させるための純粋な善意である事が明示されている(もっとも原作時点から冴羽獠はたびたび意味なく脱ぎまくってるが)

 

 冴羽獠の明るく元気な「もっこり」連呼の裏で、シティーハンターがお色気スケベ作品であると強く自覚しているが故の極めて繊細な配慮とそれを観客に感じさせないための自然な演出が隅々まで行き届いててスタッフさんの苦心と技量には本当に感嘆するばかりです。

 

  「いや、冴羽さんがのぞきを敢行してブラジャーかぶってる時点でダメだろ!」等ツッコミどころはあると思いますが、本当に一切その手のスケベをしなくなってしまったら旧来ファンの中にある「スケベでお茶目なもっこりりょうちゃん像」が破壊されてしまう。旧来ファンへのファンサービスありきの企画なのにそれではダメだ。さりとてこの敏感な時代に開き直って無頓着をゴリ押しするのもやっぱりダメだ。そんな事したらネット全盛の世の中すぐ炎上する。でも、時代に合わせるにしても、観客に自粛を想起させたらせっかくのお祭り映画が盛り下がってしまう。昭和のヒーローを当時のまま蘇らせながら同時に平成が終了する2019年のヒーロー像にも適合させなければ。

 

 こうした葛藤を経て多数の制作陣が長い時間をかけて試行錯誤しながら作られたのが本作だと思っています。

 

 

 一歩さじ加減を誤れば、作品の世界観をぶっ壊してオールドファンもそれ以外の客層も全て取り逃す結果に終わってしまうリスキーな挑戦だったと思いますが、蓋を開ければどこを見ても「当時のままだった!」という絶賛が飛び交い、興行収入13億円突破の大ヒット。『劇場版シティーハンターがヒットした理由で 「ラーメン屋でラーメン注文したらラーメン出てきたから」 』というツイートがバズったのが象徴的です。劇場版制作陣の試みは見事に成功しました。

 

 作品の印象を根底から揺るがしかねない大アレンジを作品のノリを維持したまま成し遂げるという神業的シナリオ・セリフ回し構築、構成力、演出力、PR、そして何より神谷明さんの演技力などなど感嘆に値する要素を挙げたらキリがありません。しかし、私個人が何より素晴らしいと感じたのは、「『時代の空気のせいでやりにくくなった』などと被害者ぶることもなく、何かのせいにして言い訳して逃げを打つこともなく、旧来ファンへの感謝とサービスを全面に出しながらも獠のセクハラに不快感を抱きそうな新規客層を開き直って蔑ろにすることなく、真正面から時代の変化を受け入れて古くも新しい2019年の冴羽獠像の再構築にチャレンジしたクリエイターとしての挟持ある姿勢」です。

 

  「セクハラセクハラうるせえ窮屈な時代だから作りたいもんも満足に作れやしないぜ。あーポリコレ棒うんちゃら」とそれとなく臭わせるような事を苦悩してる風にボヤけば、どんな実力の人でもお手軽に悲劇の有望職人を気取れてしまいます。同時に不評を招いたとしても内部の非と向き合わず、ポリコレ外圧だのフェミニストだのの責任にしてしまえるのだからこれほど楽な逃げ道はありません。一部の表現の自由戦士と呼ばれるオタク達は制作陣がそのような愚痴を吐けば作品の出来不出来に関わらず喜んで判官贔屓してくれるでしょう。

 

  しかし、本作の制作に関わった人間は誰一人として時代に責任転嫁しなかった。確かにオールドファンが泣いて喜ぶファンサービスに満ちているけど、だからと言って開き直って現世代の新規層を切り捨てる姿勢も見せなかった。北条司先生はパンフで「正直、冴羽獠は今の時代に受け入れられるか不安だった。だってあいつセクハラばっかりしてるし(笑)」とコメントしているけれど、セクハラを悪しとする今の時流をネガティブに認識しているのではなく、冴羽獠のスケベが旧時代のものである事を認めたうえで新旧のお客さんに受け入れてもらえるような工夫を尽くしたという印象を受けた。だって映画が万全ではなかったと予防線を張るのは、万全で最高のシティーハンター映画を期待している多くのファンを裏切る失礼な行為だから。自分達を安易に可哀想な被害者ポジションにして同情を誘うのは、プロとして人としてプライドが許さなかったから。元からの古い信者だけが喜ぶノスタルジー一点突破の映画にしてしまうのは、オープンな世間に向けて作品を発表するプロ意識に背く行為だったから。時代が許さない描写を愚痴愚痴と執着して立ち止まって嘆くことからは何も生まれないけど、前向きに「新しいヒーローとしての息吹を吹き込んで現世代のファンを増やす良い機会だ」と解釈した方が建設的で何かが生まれるから。それがものつくり、クリエイターの本懐だから。

 

 勝手な解釈かも知れませんが、そんな気概を感じ取って久々に胸の熱くなる想いをしています。

 

 そもそも昭和のTVアニメの時代からして当時から言えば最先端でオシャレでバブリーで挑戦的な作品作りをしていたはずなので、この企画・制作陣のチャレンジングな姿勢こそが『シティーハンター』というアニメに脈々と流れる原点なのかも知れません。

 

 ……と、異常に長くなってしまいましたが、実はこれ序章というかただの前振りなんです。

 

 本当はこの後に、音楽とかアクション考証とか演出面や恋愛面を項目分けしてTV版や原作と比較しつつ評価・考察をするパートを挿入する予定でしたが、ほっとくと前置きがどんどん長大になる悪癖でこうなっちゃったので「後編」として後日の記事に回します。当初は500字~1000字程度に収めるつもりだったのに、どうしてこうなった。

 

 という訳で続きますが、ここまで持ち上げといて何ですが後編はちょっと酷評入るかも知れません。

 

 全然関係ありませんが、最新の「龍が如く」や「ジャッジアイズ」と同じ開発環境で『シティーハンターが如く』もしくは『冴羽が如く』をセガさんに作って欲しいです。もちろん新宿駅に入って伝言板から依頼を受けられるようにする歌舞伎町舞台の箱庭ゲーで。『北斗が如く』がありならこっちはもっと作りやすい素材だと思います。メイン声優さん達全員健在ですし。どうでしょうか名越さん?